「中学生の恋なんて遊びでしょ?」
そんな大人たちの声を何度も聞きながら、私たちは自分たちの気持ちを信じ続けました。世間では「中学生の恋愛は続かない」「所詮は子供の遊び」と言われがちですが、実際に中学2年生で出会った相手と結婚した私の体験を通して、長く続く恋愛について考えてみたいと思います。
振り返ってみれば、あれから15年以上が経ちました。現在、私たちは二人の子供に恵まれ、平凡ながらも幸せな家庭を築いています。もちろん、決して順風満帆な道のりではありませんでした。むしろ、普通のカップル以上に多くの困難や葛藤を乗り越えてきたと思います。
今日は、そんな私たちの歩んできた道のりを振り返りながら、中学生からの恋愛が結婚まで続く可能性と、そのために必要なことについてお話ししてみたいと思います。
あの頃の私たちは、まさか本当に結婚することになるなんて想像もしていませんでした。ただ、お互いが好きで、一緒にいると楽しくて、それだけで十分だったのです。
運命的な出会いと初々しい恋心
中学2年生の春、クラス替えで同じクラスになったのが始まりでした。といっても、いわゆる「一目惚れ」のような劇的な出会いではありません。むしろ、最初はお互いの存在すら意識していなかったというのが正直なところです。
転機が訪れたのは、同じテニス部に入部してからでした。練習が終わった後、なんとなく一緒に帰るようになり、最初は数人のグループだったのが、だんだんと二人だけで歩くことが多くなっていきました。
今思い返してみると、あの頃の私たちは本当に純粋でした。手をつなぐだけでドキドキして、一緒に歩く帰り道がとても特別に感じられて。現代の中学生から見れば、きっととても初々しく映ることでしょう。
彼女の笑顔を見ているだけで幸せな気持ちになり、彼女が悲しそうにしているとなんとかして元気づけたくなる。そんな素直な感情が、私たちの関係の出発点でした。
付き合い始めたのは、中学2年生の秋のことです。文化祭の準備で遅くなった帰り道、なんとなく良い雰囲気になって、ぎこちなく「付き合ってください」と言った記憶があります。彼女の「はい」という返事を聞いた時の安堵感と嬉しさは、今でも鮮明に覚えています。
でも、正直に言うと、その時の私たちにとって「付き合う」という言葉の意味はとても曖昧でした。何をしたらいいのかもよくわからないし、どう接すればいいのかも手探り状態。ただ、お互いが特別な存在だということだけは確かでした。
思春期特有の複雑さと向き合う日々
中学生の恋愛には、大人の恋愛にはない独特の難しさがあります。何より、お互いがまだまだ成長途中であるということです。身体的にも精神的にも大きく変化する時期に、一つの関係を維持し続けることの困難さを、私たちは身をもって体験することになりました。
特に思春期の真っ只中では、自分でも自分の気持ちがよくわからないことがありました。昨日まで楽しく話していたのに、今日は何だかイライラしてしまう。彼女の何気ない一言に傷ついて、でもなぜ傷ついたのかうまく説明できない。そんな複雑な感情に振り回される日々が続きました。
また、周囲の大人たちの視線も気になりました。「まだ中学生なのに」「勉強に集中した方がいい」「どうせ続かない」といった言葉を直接的に、または間接的に聞くことが多く、時には自分たちの関係に確信が持てなくなることもありました。
親からの反対も軽いものではありませんでした。特に彼女の両親は心配性で、「まだ早すぎる」「勉強の邪魔になる」と言って、私たちの関係を快く思っていませんでした。家に電話をかけることさえ気を遣い、彼女と会うのも制約がある中で、関係を続けることの困難さを感じていました。
しかし、そんな困難があったからこそ、お互いの気持ちがより深まったのかもしれません。周囲から反対されても、二人で支え合おうという気持ちが強くなり、絆が深まっていったのです。
高校進学という初めての試練
中学3年生になると、避けて通れない問題が浮上しました。高校受験です。お互いに目指している高校が違うことがわかり、このまま関係を続けることができるのか、真剣に悩む日々が始まりました。
彼女は地元の進学校を、私は少し離れた工業高校を志望していました。電車で1時間程度の距離でしたが、中学生の私たちにとっては遠距離恋愛のような感覚でした。
受験勉強が本格化すると、会う機会も減り、お互いに余裕がなくなってきました。「このまま別々の高校に行ったら、きっと関係は終わってしまうのではないか」という不安が心の奥底にありながらも、それを口に出すことはできませんでした。
特に印象深いのは、受験の直前に二人で話し合った時のことです。お互いの将来について、そして私たちの関係についても真剣に話し合いました。まだ15歳だった私たちが、大人びた議論をしていたことを今でも鮮明に覚えています。
「高校に行っても、お互いを大切に思う気持ちは変わらないと思う。でも、新しい環境で新しい出会いもあるだろうし、お互いが変わってしまうかもしれない。それでも、今の気持ちは本物だと思うから、続けてみたい」
そんな風に話し合った記憶があります。今思えば、随分と大人びた考え方をしていたものです。
遠距離恋愛という新たなチャレンジ
高校に入学すると、予想していた通り、関係を維持することは簡単ではありませんでした。現在のようにスマートフォンやSNSが普及していない時代でしたから、連絡を取り合う手段も限られていました。
主な連絡手段は、家の固定電話と手紙でした。電話をかけるにも、お互いの家族がいる時間を避けなければならず、時間を合わせることが困難でした。また、長時間話すと電話代も気になり、短時間で要点を伝える必要がありました。
手紙のやり取りは、今となっては懐かしい思い出です。便箋を選び、丁寧に文字を書き、封筒に入れて投函する。相手からの返事を待つ間のドキドキ感は、メールやLINEでは味わえない特別なものでした。
しかし、手紙での連絡にも時間がかかります。こちらから送った手紙が相手に届くまでに数日、返事をもらうまでにはさらに数日。リアルタイムでのコミュニケーションとは程遠く、時にはすれ違いが生じることもありました。
直接会うのは主に週末でした。お互いの学校の中間地点で待ち合わせをして、数時間一緒に過ごすのが精一杯でした。平日は部活動や勉強で忙しく、会う時間を作るのは簡単ではありませんでした。
そんな制約の多い環境でしたが、だからこそ会える時間がとても貴重に感じられました。限られた時間の中で、お互いの近況を報告し合い、学校での出来事を共有し合う。そうした時間が、私たちにとってはかけがえのないものでした。
それぞれの成長と変化を受け入れる
高校生活が進むにつれて、お互いが大きく変化していることを実感するようになりました。新しい友達ができ、新しい興味や関心が芽生え、将来への考え方も変わってきました。
彼女は文系で文学に興味を持つようになり、私は理系で技術的なことに関心を向けるようになりました。共通の話題が少なくなり、お互いの世界が離れていくような感覚を覚えることもありました。
また、それぞれの学校での人間関係も複雑になってきました。彼女の学校には魅力的な男子生徒もいるでしょうし、私の学校にも素敵な女子生徒がいます。そうした環境の中で、お互いへの気持ちを保ち続けることの困難さを感じることもありました。
正直に言うと、何度か別れを考えたこともありました。このまま続けていても、お互いに無理をしているだけなのではないか。もっと身近な人と恋愛をした方が、お互いのためなのではないか。そんな風に悩んだ時期もありました。
しかし、そんな時でも最終的に関係を続けることを選んだのは、お互いへの根深い愛情と信頼があったからです。表面的には変わってしまった部分もありましたが、本質的な部分での共感や理解は変わらずにありました。
むしろ、お互いが成長し、新しい側面を見せ合うことで、関係がより豊かになっていったと感じています。中学生の頃の単純な好意から、より複雑で深い愛情へと発展していったのです。
進路選択での最大の試練
高校3年生になると、今度は大学受験という新たな壁が立ちはだかりました。中学から高校への進学時以上に、将来を左右する重要な選択でした。
彼女は文学部を志望し、私は工学部を志望していました。しかも、お互いが志望する大学は、さらに離れた場所にありました。この時ばかりは、本当にこのまま関係を続けていけるのか、深刻に悩みました。
大学4年間という長い期間を、さらに遠い距離で過ごすことになる。その間にお互いがどれだけ変わってしまうかもわからない。現実的に考えて、関係を維持することは非常に困難に思えました。
この時期は、私たちの関係にとって最も厳しい時期だったかもしれません。将来への不安、進路に対するプレッシャー、そして恋愛関係を続けることへの疑問。様々な感情が複雑に絡み合い、精神的にも大きな負担を感じていました。
両親からも「大学ではもっと広い世界を見た方がいい」「今の関係にとらわれすぎない方がいい」といったアドバイスを受けることが多くなりました。周囲の友人たちも、「大学に行ったらもっといい人に出会えるよ」と言ってくれる人が多く、私たちの関係に疑問を投げかけることもありました。
しかし、そんな中でも私たちが出した結論は、「お互いの将来を尊重し合いながら、関係を続けてみよう」というものでした。無理に同じ大学を受験するのではなく、それぞれが本当に行きたい大学を受験し、その上で関係を維持する方法を模索することにしたのです。
大学時代の成長と深まる絆
幸い、お互いに第一志望の大学に合格することができました。しかし、今度は本格的な遠距離恋愛が始まりました。新幹線で3時間程度の距離でしたが、交通費を考えると頻繁に会うことは困難でした。
大学生活は、高校時代以上に多様な経験をもたらしてくれました。様々な地域から来た同級生たちとの交流、専門分野での学習、サークル活動、アルバイト経験など、毎日が新鮮で刺激的でした。
正直に言うと、この時期に他の人に魅力を感じたことも何度かありました。サークルで知り合った素敵な先輩や、アルバイト先の魅力的な同僚など、心が揺れることもありました。きっと彼女にも同じような経験があったことでしょう。
しかし、そうした経験を通して、改めて彼女の存在の大きさを実感することになりました。他の人と比較することで、彼女の良さがより明確に見えてきたのです。長い時間をかけて築いてきた信頼関係、お互いの深い部分まで理解し合える関係性の貴重さを、身をもって感じることができました。
大学時代の私たちは、月に一回程度しか会うことができませんでした。しかし、その限られた時間がとても濃密で充実したものでした。お互いの大学生活について詳しく話し合い、将来への夢や目標を共有し合いました。
また、この時期から将来の結婚についても具体的に話し合うようになりました。まだ学生の身分でしたが、「いつかは結婚したいね」という漠然とした希望から、「卒業したら本格的に結婚を考えよう」という具体的な計画へと発展していったのです。
社会人としてのスタートと結婚への道のり
大学を卒業し、それぞれが社会人としてのスタートを切りました。彼女は出版社に、私は機械メーカーに就職しました。幸い、勤務地が同じ首都圏だったため、学生時代よりは会いやすくなりました。
しかし、社会人としての生活は学生時代とは全く違う厳しさがありました。毎日の仕事に追われ、疲れて帰宅する日々。休日も仕事の疲れを癒すので精一杯で、恋愛に割く時間や精神的な余裕を確保することが困難でした。
特に新人時代は、お互いに仕事を覚えることに必死で、連絡を取り合う頻度も減ってしまいました。久しぶりに会っても、仕事の愚痴ばかりで、以前のような楽しい時間を過ごすことが難しくなりました。
この時期は、私たちの関係にとって新たな試練の時期でした。学生時代は将来への希望や夢を語り合うことが多かったのですが、社会人になると現実的な問題に直面することが多くなったのです。
結婚を意識するようになったのも、この時期からでした。お互いに経済的に自立し、社会人としての責任を負うようになったことで、より現実的に将来を考えるようになったのです。
結婚を決意したのは、付き合い始めてから8年後、私たちが24歳の時でした。長い時間をかけてお互いを理解し合い、様々な困難を乗り越えてきた末の決断でした。
プロポーズは、初めて二人で行った思い出の場所で行いました。中学時代によく一緒に帰った公園のベンチで、「今度は夫婦として一緒に歩んでいこう」と伝えました。彼女の涙を見た時、これまでの長い道のりが報われたような気がしました。
困難を乗り越えるために大切だったこと
振り返ってみると、私たちが長い関係を維持できた理由はいくつかあると思います。
まず、お互いの成長を尊重し合えたことです。思春期から青年期にかけての大きな変化の中で、相手が変わっていくことを恐れるのではなく、受け入れ、支援し合うことができました。「昔のあなたの方が良かった」と言うのではなく、「今のあなたも素敵だね」と言い合えたことが大きかったと思います。
次に、コミュニケーションを大切にしたことです。特に遠距離期間中は、限られた手段であっても、お互いの気持ちや状況を共有し合うことを怠りませんでした。誤解が生じた時も、面倒がらずに話し合いを重ねました。
また、お互いにプレッシャーをかけすぎなかったことも重要でした。「絶対に別れてはいけない」「何があっても続けなければいけない」と思いすぎると、かえって関係が窮屈になってしまいます。「もし合わなくなったら、その時はその時」という心の余裕を持ちながら、自然な流れに任せることができました。
そして、何より大切だったのは、お互いへの根深い愛情と信頼があったことです。表面的な変化に惑わされることなく、相手の本質的な良さを見続けることができました。
現在の私たちと若いカップルへのメッセージ
現在、私たちは結婚して10年以上が経ち、二人の子供に恵まれています。中学生だった頃の私たちからは想像もできないような、平凡でありながら充実した日々を送っています。
もちろん、結婚してからも様々な困難がありました。仕事のストレス、育児の大変さ、経済的な問題など、大人の恋愛では経験しないような課題に直面することもあります。しかし、長い時間をかけて培ってきた信頼関係と理解があるからこそ、そうした困難も乗り越えることができています。
中学生の頃の純粋な気持ちで始まった関係が、こうして家族という形になったことを、今でも奇跡のように感じています。世間では「中学生の恋愛なんて」と言われることも多いですが、本当に大切なのは、年齢ではなく、お互いへの思いやりと理解だと思います。
これから恋愛を始める若いカップルや、現在長期間の関係を続けているカップルに伝えたいのは、関係を続けることの大変さと同時に、その価値の大きさです。
簡単に諦めてしまうのはもったいないですが、無理に続ける必要もありません。大切なのは、お互いが成長し合い、支え合える関係を築くことです。そのためには、相手の変化を受け入れ、自分自身も成長し続ける姿勢が必要です。
また、周囲の声に惑わされすぎないことも大切です。「若い恋愛は続かない」「もっと他の人を見た方がいい」といった意見もあるでしょうが、最終的に決めるのは自分たちです。他人の価値観ではなく、自分たちの気持ちを大切にしてください。
恋愛は人生を豊かにしてくれる素晴らしいものですが、それ自体が人生の全てではありません。勉強や仕事、友人関係や家族関係など、バランス良く大切にしながら、恋愛関係も育んでいってください。