「脈なし」の相手と会う複雑な心の動き~マッチングアプリが映し出す私たちの本音と建前~
電車の中でふと隣に座った友人がため息をついた。
「またデート失敗したよ...」
彼女は先週末、マッチングアプリで知り合った男性と会ったらしい。メッセージのやり取りでは順調だったのに、実際に会ってみると話が合わず、気まずい空気のまま別れたという。
「でもね、面白いのは、私も彼も『また会いましょう』って言っちゃったんだよね。お互い絶対に脈なしだったのに...」
この友人の経験に思わず頷いてしまったのは、私自身も似たような経験があるから。マッチングアプリの世界では、興味がない相手とも「とりあえず会ってみる」という不思議な現象が起きている。今日はそんな「脈なし」の相手と会う心理について、リアルな体験談を交えながら掘り下げていきたい。
この記事を読むと、あなた自身のデート経験を振り返るきっかけになるかもしれない。もしかしたら「あぁ、あのときの相手もこんな気持ちだったのかな」と気づくこともあるだろう。それとも「私、こんな理由で会ってたのか...」と自分の心理に初めて気づくかもしれない。
いずれにせよ、マッチングアプリの世界で起きる「脈なし」との奇妙な関係性について、一緒に考えてみよう。
「とりあえず会ってみる」の裏側にある本当の心理
スマホ画面を左右にスワイプし、次々と相手を選んでいく。マッチングアプリの世界では、私たちはかつてないほど多くの「選択肢」を目の前にしている。だからこそ、「脈なし」と感じる相手とも会ってしまう複雑な心理が生まれるのだろう。
好奇心という名の甘い誘惑
「会ってみないと分からない」
これは、マッチングアプリユーザーがよく口にするフレーズだ。プロフィール写真や短いメッセージだけでは、相手の人となりを完全に判断することはできない。だからこそ、少しでも気になる相手には会ってみたいという好奇心が湧いてくる。
私の友人の美咲(32歳)は、こんな経験を話してくれた。
「彼とのメッセージのやり取りは、正直そんなに盛り上がってなかったの。でも、プロフィールには『料理が趣味』って書いてあって、それだけが気になってたんだよね。私も料理好きだから、もしかしたら会ってみたら意気投合するかも?って思って会ったんだ。結果的には会話も続かなくて『やっぱりな』って感じだったけど、でも『会わなかったら分からなかった』っていう満足感はあったかな」
美咲の話からも分かるように、「もしかしたら」という小さな期待が、私たちを動かすことがある。たとえメッセージでの印象が今ひとつでも、実際に会えば違った一面が見えるかもしれない。そんな好奇心が、脈なしの相手とも会ってみる原動力になっているんだろう。
「選択の自由」を感じたい心理
スマホの中には何十人、何百人ものマッチング候補がいる。そんな環境で育まれるのは、「私には選ぶ権利がある」という感覚だ。
30歳の健太さんは率直にこう語る。
「正直言うと、マッチングアプリを使い始めた頃は、『選ばれる立場』から『選ぶ立場』になれた感覚が新鮮だったんです。学生時代は告白して振られることが多かったけど、アプリでは複数の人から『いいね』をもらえるじゃないですか。だから、あまり興味がない人とも『とりあえず会ってみようか』って思ってました。自分には選択肢があるって感覚を味わいたかったのかもしれません」
健太さんの言葉には、現代のデートカルチャーの一面が表れている。「選ぶ側」になることで自己肯定感を高めたい、でも同時に「選ばれる側」でもありたい。この矛盾した心理が、脈なしの相手とも会ってみるという行動につながるのかもしれない。
「暇つぶし」という名の孤独からの逃避
現代社会では、多くの人が「繋がっている感覚」を求めている。SNSでのいいねや、メッセージアプリの既読表示...私たちは常に誰かとの繋がりを確認したがる。
28歳の由美さんは、こんな体験を語ってくれた。
「休日に予定がないと、なんだか焦るんですよね。友達はみんな彼氏といるか、家族サービスで忙しいし...そんなとき、マッチングアプリの通知が来ると、なんとなく救われる気持ちになるんです。『この人とは絶対に合わないな』と思っても、会うことで『私は一人じゃない』って感じられるというか。その日一日を『デートしてた』って言える安心感があるのかもしれません」
由美さんの言葉からは、現代の「孤独」が見え隠れする。実は「脈なし」の相手と会うことは、孤独から逃れるための手段になっていることもあるのだ。皮肉なことに、本当の繋がりを求めているからこそ、表面的な繋がりにすがってしまう...この矛盾が、マッチングアプリ時代の孤独の形なのかもしれない。
「B案」「C案」を用意しておく保険のような心理
恋愛においても、現代人は「リスクヘッジ」を考えている。「一番良さそうな相手」だけでなく、「次点」「三番手」の候補も同時に進行させておく...そんな心理も見られる。
35歳の涼子さんは、こんな経験を話してくれた。
「私、去年本命の人がいたんです。すごく気が合って、将来も考えられる人だなって。でも、彼の気持ちが読めなくて...。だから、他の2人とも並行して会っていたんです。脈なしじゃないけど、『本命』ほど惹かれていない人たちと。結局、本命の人とは上手くいかなかったんですが、そのときに『他にも候補がいる』って思えたことで、精神的に救われました。それが良かったかどうかは分からないけど、現実なんですよね」
涼子さんのように、「本命」の相手との関係が上手くいかなかったときのために、「保険」として複数の相手と会うケースもある。これは冷淡に聞こえるかもしれないが、傷つきたくない、一人になりたくないという人間の自然な心理の表れかもしれない。
リアルな体験談から見える「脈なし」デートの実態
では、実際に「脈なし」と感じながらも会った人たちは、どんな体験をしているのだろうか。ここでは、より詳細な体験談を紹介したい。
「相手の反応が見たかった」ケース
31歳の俊介さんは、マッチングアプリで知り合った女性とのデートについて、こう振り返る。
「彼女とのメッセージのやり取りは最初は順調だったんですが、デート直前になると返信が遅くなったり、短くなったりして。『あれ?もしかして脈なし?』って思いました。でも、せっかく約束したし、会ってみることに。
案の定、カフェで会った彼女は終始スマホをいじっていて、私の話にもあまり反応しない...。『これは完全に脈なしだな』って気づいたんですが、不思議なことに、その状況がどう展開するのか見てみたいという気持ちが湧いてきたんです。
だから、敢えてデート終わりに『また会いたいね』って言ってみました。彼女も『うん、ぜひ』って...。お互い嘘をついているのが分かるんですけど、なぜかその駆け引きが面白くて。結局、その後は連絡も取らず、自然消滅しました。
今思えば、私は彼女が『脈なしの相手にどう対応するか』を見たかったんだと思います。変な心理実験をしていたみたいで、ちょっと後悔してますが...」
俊介さんのように、「相手の反応を見たい」という好奇心から、あえて脈なしの状況を続けるケースもある。これは、恋愛心理への興味から来るものなのか、それとも自分の魅力を試したいという気持ちからなのか...。人によって理由は異なるだろう。
「軽い気持ちで友達感覚」のデート
26歳の麻由さんは、マッチングアプリとの付き合い方についてこう語る。
「私は最初からみんなと『恋人になるぞ!』って気持ちで会ってないんです。友達が増えればいいなって感じで。だから、メッセージで特別盛り上がらなくても、『まぁ、会ってみるか』って思うことが多いかな。
先月会った人も、正直メッセージではピンとこなかったんだけど、趣味が似てたから会ってみたの。案の定、会話はそこそこだったけど、恋愛感情は全然湧かなくて。でも、普通に楽しい時間ではあったから良しとしてる。
その後も何回か会ったけど、お互い恋愛感情はないまま。でも、映画の趣味が合うから、たまに一緒に観に行ったりする関係になってるよ。彼も同じ気持ちみたいで、プラトニックな関係が続いてる。恋人にはならないけど、こういう関係もアリかなって思ってる」
麻由さんのように、「恋愛」という枠にとらわれず、新しい人間関係を楽しむという姿勢もある。ある意味では健全で、「脈なし」という言葉すら当てはまらない関係かもしれない。ただ、両者の認識がずれると、誤解や傷つきが生まれることもあるだろう。
「他の候補と比較するため」のデート
29歳の直樹さんは、自分の行動パターンについて自己分析する。
「僕はいつも3〜4人と同時進行でメッセージのやり取りをしています。効率が良いんですよね。その中で、特に気になる人がいると、他の人との比較のために会うことがあります。
先日も、Aさんという人にかなり惹かれていたんですが、念のためBさんとも会ってみることに。Bさんは正直そこまで興味が持てなかったんですが...。結果的に、Bさんと実際に会ってみて『やっぱりAさんの方が良いな』と再確認できたので、その後はAさんとの関係を深めることに集中しました。
Bさんに対しては少し申し訳ない気持ちもありますが、でも恋愛って最終的には一人を選ぶものですよね。その過程で比較するのは仕方ないのかなと思っています」
直樹さんのような「比較」のためのデートは、現代の恋愛事情をよく表している。豊富な選択肢があるからこそ、最適な相手を見つけるために「比較検討」するという消費者的な行動パターンが生まれているのかもしれない。
「脈なし」の相手との関係から学んだこと
「脈なし」の相手とのデートは、必ずしもネガティブな経験ばかりではない。むしろ、そこから大切なことを学んだという声も多い。
自分の本当の気持ちに気づくきっかけ
33歳の梨花さんは、「脈なし」の経験から学んだことをこう語る。
「私、昔は『とりあえず会ってみよう』って思ってたんです。でも、ある日気づいたんです。私、なんでこんなに時間を無駄にしてるんだろうって。
特にショックだったのは、何度か会った人に『正直、あなたにはあまり興味がないんだけど、暇つぶしに会ってた』って言われたとき。その言葉で鏡を見せられた気がして...。私も同じことをしてたんだなって。
それからは、自分の気持ちに正直になることにしました。メッセージの段階で『この人とは合わないかも』と思ったら、無理に会わない。時間は有限だし、相手の気持ちも大切にしたいから。
結果的に、デートの回数は減ったけど、会う人との時間の質は格段に上がりました。今の彼とは、メッセージの段階から『この人だ!』って思えたから会ったんです。そしたら本当に気が合って、付き合って半年になります」
梨花さんのように、「脈なし」の経験が自分の行動パターンを見直すきっかけになることもある。時間の大切さ、相手の気持ちへの配慮...こうした気づきは、その後の人間関係に良い影響を与えるだろう。
相手への思いやりの大切さを学ぶ
27歳の健一さんは、自分の経験からこう語る。
「昔の僕は、『この人とは合わないな』と思っても、別れ際に『また連絡するね』って言ってました。相手を傷つけたくないからという理由でしたが、結局は無責任な言動だったと思います。
あるとき、友人から『それって相手に期待させて、結局傷つけることになるよ』って指摘されて...ハッとしたんです。確かに、曖昧なままにするより、きちんと意思表示する方が相手のためになるんだなって。
それからは、デート後に『楽しかったけど、恋愛感情は湧かなかった。でも、良い時間をありがとう』というような、誠実な気持ちを伝えるようにしています。最初は言いづらかったけど、意外と相手も理解してくれることが多いですね」
健一さんの経験は、「優しさ」と「誠実さ」の違いを教えてくれる。一時的な気まずさを避けるための「優しさ」よりも、長期的な視点での「誠実さ」の方が、結果的には相手のためになるということだ。
自分の価値観や好みを知るきっかけ
34歳の絵里さんは、マッチングアプリでの様々な出会いについてこう振り返る。
「私、これまで20人くらいの人と会ってきたかな。その中で『この人いいな』と思えたのは3人くらい。でも、残りの17人との出会いも無駄じゃなかったと思ってるんです。
『脈なし』と感じた相手との会話の中で、『あ、私はこういう考え方の人とは合わないんだな』とか、『こういう話題が盛り上がらないのはなぜだろう』とか、自分自身の好みや価値観に気づくことができましたから。
例えば、政治の話になると白熱して会話が弾む自分に気づいたり、子どもの話をする人に自然と親近感を覚えたり...。そういう『自分の反応』を観察することで、私が本当に求めている相手像が少しずつ明確になっていきました。
だから今は、新しい人と会うとき、『この人と恋愛関係になれるかな?』だけじゃなくて、『この人との会話から何を学べるかな?』という視点も持つようにしています」
絵里さんの言葉は、「脈なし」の経験を自己理解のために活かすという前向きな姿勢を教えてくれる。どんな出会いも、自分を知るための貴重な機会になり得るということだ。
「脈なし」との付き合い方~これからのデートに活かすために
最後に、「脈なし」の相手とのデートから学んだことを、これからの恋愛にどう活かしていけばいいのか。具体的なアドバイスを考えてみよう。
事前コミュニケーションを大切にする
マッチングアプリでは、メッセージのやり取りが最初の関門だ。この段階で相手との相性をある程度見極めることができる。
「私は最低でも3日間はメッセージのやり取りをするようにしています。最初は表面的な話題でも、次第に価値観や将来の話など、少し踏み込んだ内容に触れてみる。そうすると、『この人とは波長が合いそうか』がなんとなく分かってきますね」(32歳・女性)
「質問の投げかけ方に注目しています。『〇〇についてどう思う?』と自分の意見を求めてくる人は、対等な関係を築きたいと思っている証拠。一方、自分の話ばかりで質問が少ない人とは、実際に会っても一方的な会話になりがちです」(29歳・男性)
メッセージでのやり取りを丁寧に行うことで、「脈なし」のデートを減らすことができるかもしれない。もちろん、メッセージだけでは分からない部分もあるが、最低限の相性チェックは可能だろう。
自分の気持ちに正直になる勇気を持つ
「脈なし」と感じたときは、その気持ちに素直になることも大切だ。
「以前はなんとなく流されて、興味のない人とも会っていました。でも今は、『この人とは合わないな』と思ったら、丁寧にお断りするようにしています。その方が、お互いの時間を大切にできると思うから」(35歳・女性)
「デート中に『この人とは恋愛感情が芽生えそうにない』と感じたら、無理に次回のデートを約束せず、『今日は楽しかった。少し考えさせてね』と正直に伝えるようにしています。嘘をつかないことで、自分も相手も尊重できると思います」(28歳・男性)
自分の気持ちに正直になることは、時に勇気がいる。でも、その小さな勇気が、結果的には双方にとって良い結果をもたらすことが多い。
「出会い」の本質を見失わない
最後に、マッチングアプリという便利なツールに振り回されず、「出会い」の本質を大切にすることを忘れないでほしい。
「私は一時期、マッチングアプリを『ゲーム』のように使っていました。たくさんの人とマッチングして、メッセージをして、会って...。でも、そのうち疲れてしまって。今は『質』を重視しています。一人ひとりとのやり取りを大切にして、本当に会いたいと思える人だけに会うようにしています」(30歳・女性)
「結局、人との出会いは『縁』なんじゃないかなと思います。マッチングアプリという便利なツールができても、本当に相性の良い人と出会える確率は変わらないのかも。だから今は、『量』より『質』、『効率』より『縁』を大切にしています」(36歳・男性)
マッチングアプリの世界では、私たちはつい「効率」や「最適化」を求めがちだ。でも、人との出会いはそうシンプルではない。時には偶然や運命の要素も大切にしながら、一期一会の出会いを大切にしていきたいものだ。
「脈なし」から見えてくる現代の恋愛事情
ここまで、「脈なし」の相手と会う心理や、そこから学んだことについて見てきた。これらの声から見えてくるのは、現代の恋愛事情の複雑さだ。
一方では、マッチングアプリによって「出会いの機会」は格段に増えた。でも同時に、その手軽さゆえに「出会いの質」が薄れているという皮肉な現実もある。
「脈なし」の相手と会うという現象は、単なる時間の無駄遣いではなく、現代人の孤独や繋がりへの渇望、自己探求の旅の一部なのかもしれない。
大切なのは、こうした経験を通じて、自分自身についての理解を深めること。そして、その理解をもとに、より豊かな人間関係を築いていくことではないだろうか。
次にマッチングアプリで「脈なし」かもと感じたとき、少し立ち止まって考えてみてほしい。「なぜ会おうと思うのか」「そこから何を得たいのか」...。そんな自問自答が、より充実した出会いへの一歩になるかもしれない。