空っぽのダイニングテーブルを前に座りながら、友人の美和が溜息をついた日のことを今でも鮮明に覚えています。彼女は付き合って1年になる彼氏との関係に疲れ果てていました。「最初は彼のリードが心強かったのに、今はただ窮屈」。そう言った彼女の目には、諦めと疲労の色が浮かんでいました。この日、彼女が語ってくれた「仕切りたがる恋人」との日々は、多くの人が経験する関係の難しさを映し出していました。
あなたは「仕切りたがる人」との恋愛を経験したことがありますか?もしくは、自分自身がパートナーに対して「ちょっと仕切りすぎてるかも...」と感じたことはありませんか?今日は、恋愛における「主導権」や「コントロール」の問題について、実際の体験談をもとに掘り下げていきたいと思います。
恋愛において「仕切りたがる人」とは、関係の中で常に主導権を握り、パートナーや関係性そのものをコントロールしようとする傾向のある人を指します。デートの計画から始まり、二人の時間の使い方、時には相手の服装や交友関係にまで及ぶことも少なくありません。
最初は「頼りがいがある」「しっかりしている」と好印象を持たれることも多いこのタイプ。しかし時間が経つにつれ、その強いリーダーシップが次第に息苦しさへと変わっていくケースが珍しくないのです。
「彼とのデートは最初からすべて完璧だった」
30歳のOL、真由美(仮名)はそう振り返ります。
「初めて会った日から、彼はレストランの予約から映画のチケット、帰りのタクシーまですべて手配してくれました。私は『なんて頼りになる人なんだろう』と思っていました。女性として大切にされているようで、とても嬉しかったんです」
彼女の交際相手は34歳の営業マン。仕事でもリーダーシップを発揮するタイプで、その姿勢が恋愛にも表れていたのでしょう。最初の数か月は、真由美にとって夢のような時間だったといいます。
「私はいつも仕事で疲れていて、誰かが決めてくれる安心感がありました。『何をしたい?』と聞かれるより、『ここに行こう』と言ってもらえる方が楽だったんです」
しかし、交際が半年を過ぎたあたりから、その関係性に違和感を覚えるようになったと真由美は語ります。
「ある日、友人との女子会の予定を話したら、『明日は俺と過ごす予定だろう』と言われたんです。でも、そんな約束はしていなくて...。『勝手に決めないでほしい』と伝えたら、『いつも俺が予定を立ててるじゃないか、それでいいと思ってた』と返されました」
この出来事をきっかけに、真由美は自分たちの関係を見つめ直すようになりました。彼が「仕切る」のは単なる思いやりではなく、関係をコントロールしたいという欲求から来ていることに気づいたのです。
「彼は私の服装にも意見するようになりました。『そのワンピース似合わないよ』『その髪型やめた方がいい』と。最初は『気にかけてくれてるんだ』と思っていましたが、次第に『彼の好みに合わせないといけない』というプレッシャーを感じるようになったんです」
こうした経験は、真由美だけのものではありません。33歳の健太(仮名)も、元恋人との関係で同様の苦しみを味わいました。ただし彼の場合は、自分自身が「仕切られる側」になることの難しさを経験したのです。
「彼女はすごく計画的な人でした。デートの1週間前にはすべての予定が決まっていて、時間も分単位。最初は『しっかりした人だな』と感心していましたが...」
健太は少し照れくさそうに続けます。
「僕は少し行き当たりばったりなタイプで、たまには予定を変えたり、ふらっと立ち寄った場所で新しい発見をするのも楽しいと思っていました。でも彼女はそれを許さなかった。『計画通りにしないと時間が無駄になる』と言われると、反論できなくなってしまって...」
彼らの関係は1年ほど続きましたが、最終的には健太が「窮屈さ」に耐えられなくなり、別れを切り出したといいます。
「彼女は悪い人じゃなかった。ただ、お互いの自由や意見を尊重するバランスが取れなかったんだと思います」
ここで一つ興味深いのは、「仕切りたがる」傾向は必ずしも悪意から来るものではないということです。多くの場合、その背景には不安や恐れ、または単に「これが愛情表現だ」という思い込みがあります。
心理カウンセラーの木村さん(仮名)は、こう説明します。
「パートナーをコントロールしようとする人の多くは、実は自分自身が不安を抱えています。『相手が離れていくのではないか』『自分がコントロールを失えば関係が崩れるのではないか』という恐れから、計画や決断のすべてを握ろうとするのです」
また、幼少期の家庭環境も影響することがあるといいます。
「例えば、親が厳格で子どもの意見をあまり尊重しなかった家庭で育った場合、『愛するとはコントロールすること』という誤ったメッセージを無意識に学んでしまうことがあります。逆に、両親の関係があまりにもカオスだった場合は、『自分が全てをコントロールしなければ』という過剰な責任感を持つこともあります」
では、もし自分が「仕切られている」と感じたとき、または自分自身が「仕切りすぎている」と気づいたとき、どう対処すればよいのでしょうか?
まず、「仕切られている側」の立場からアドバイスします。
第一に大切なのは、早い段階で自分の気持ちや境界線を明確に伝えることです。「ありがとう、でも今日のランチは私が選びたいな」「週末は友達と過ごす時間も大切にしたいんだ」など、感謝の気持ちと共に自分の希望を伝えましょう。
26歳の里奈(仮名)は、「仕切りたがる」彼氏との関係をうまく修正できた一人です。
「彼は本当に細かいところまで計画する人で、最初は『面倒見がいいな』と思っていました。でも3か月くらい経った頃、『私も関係に貢献したい』と率直に伝えたんです。『あなたの気遣いは嬉しいけど、私も二人の関係に参加している実感が欲しい』って」
里奈の彼氏は最初こそ戸惑ったものの、彼女の気持ちを理解し、次第に二人で一緒に計画を立てるようになったといいます。
「今では『次のデート、どこに行きたい?』と彼から聞いてくれることも増えました。完璧じゃないけど、お互いを尊重する関係に近づいている気がします」
一方で、どんなに話し合っても相手が変わらず、関係が一方的であり続けるなら、その関係を見直す勇気も必要かもしれません。真の愛情とは、相手を縛ることではなく、その人らしさを尊重することだからです。
次に、もし自分自身が「仕切りすぎている」と感じたなら、なぜそうするのかを内省してみることが大切です。それは本当に相手のためを思ってのことでしょうか?それとも、自分の不安や恐れからくるものでしょうか?
32歳の貴之(仮名)は、自分が「仕切る側」だったことを自覚し、変わろうと努力している一人です。
「以前の彼女との関係で、僕はすべてを決めようとしていました。別れた後、自分のやり方を振り返ってみると、実は『彼女に選ぶ機会を与えて失望されるのが怖かった』という不安があったんだと気づいたんです」
貴之は、カウンセリングを通じて自分の行動パターンと向き合い、現在の彼女との関係では意識的に「委ねる勇気」を持つようにしているといいます。
「最初は本当に怖かった。『何食べたい?』って聞くだけでも緊張したんです。でも、彼女の選んだレストランで予想外に素敵な時間を過ごせたり、彼女の立てた計画で新しい発見があったりすると、『コントロールしなくても大丈夫なんだ』と少しずつ安心できるようになりました」
恋愛における理想的な関係とは、一方が常に主導権を握るのではなく、状況や得意分野に応じて自然にリードする役割が入れ替わるようなバランスのとれたものではないでしょうか。時には彼がレストランを予約し、時には彼女が週末の予定を計画する。お互いの意見を尊重し、二人で決断を下していく。そんな関係こそが、長く続く健全な愛の形なのかもしれません。
友人の美和は、あの日の会話から数か月後、彼氏との関係に終止符を打ちました。「私の意見を尊重してくれる人と一緒にいたい」という彼女の決断は、自分自身を大切にする勇気からきたものでした。今、彼女は新しい恋人との間で、互いを尊重し合う関係を築いています。
「仕切りたがる人」との恋愛は、時に苦しいものかもしれません。しかし、そこから私たちが学べることも多いのです。自分の境界線を知ること、意見を伝える勇気を持つこと、そして何より、真の愛情とは相手をコントロールすることではなく、その人らしさを尊重し、共に成長していくことだということを。
もしあなたが今、「仕切られている」と感じているなら、勇気を出して自分の気持ちを伝えてみてください。また、自分が「仕切りすぎている」と感じるなら、少しずつコントロールを手放す練習をしてみてはいかがでしょうか。完璧な関係など存在しませんが、お互いを尊重し合うバランスを見つける努力は、必ず二人の絆を深めてくれるはずです。
恋愛は、二人で共に歩む旅路。その道のりで大切なのは、誰がリードするかではなく、互いの歩幅を合わせながら、同じ景色を共有できることなのかもしれませんね。
あなたの恋愛は、どんなバランスで進んでいますか?少し立ち止まって考えてみる時間も、時には必要かもしれません。